私たちが最初に考えたのは、「財布に漆の抗菌性を活かせないか」ということでした。
財布は毎日何度も手で触れるもの。電車のつり革、ドアノブ、現金——あらゆるものに触れた手で開閉を繰り返す。漆が持つ天然の抗菌性を財布に纏わせることができたら、それはとても面白いプロダクトになるはずだと。
漆の原液の写真しかし、漆には根本的な壁がありました。
天然漆は硬化することで強靭な塗膜をつくる素材です。だからこそ木製品のコーティングには最適ですが、裏を返せば「硬くなる」ことが宿命。曲げ伸ばしを繰り返す財布、しなやかさが求められる革——漆が最も不得意とする相手でした。
実際に従来の漆を革に塗ってみると、乾燥後に折り曲げた瞬間、塗膜にひびが入る。何度条件を変えても結果は同じでした。抗菌性のアイデアは良くても、割れてしまっては製品にならない。
革財布の中央を曲げたときに発生したひび割れ転機となったのは、同じ京都で漆の精製を手がける職人がつくる、特別な漆の存在でした。
3本ロールミルで漆の粒子を極限まで均一に分散させたMR漆®は、硬化しても緻密でしなやかな塗膜を形成します。もともとは神社仏閣の屋外修復用に開発された技術ですが、この「しなやかさ」こそ、私たちが求めていたものでした。
MR漆®を革に塗り、乾燥させ、折り曲げる——割れない。何度曲げても、割れない。
漆の抗菌性を、柔らかい革の上で実現する。不可能だと思っていたことが、MR漆®によって可能になった瞬間でした。そこから拭き漆の回数、乾燥条件、革との相性を一つずつ検証し、ようやく製品として成立するレベルに到達。THE URUSHIコンパクトウォレットは、こうして生まれました。